Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十七

       いそのかみのなむまつが宮づかへもせで、石上といふ所にこもり侍りけるを、
にはかにかうぶりたまはりければ、よろこびいひつかはすとてよみてつかはしける
布留今道  
870   
   日の光  藪しわかねば  いそのかみ  ふりにし里に  花も咲きけり
          
        詞書の意味は 「石上並松(いそのかみのなむまつ)という人物が宮仕えをせずに石上にこもっていたところ、急に位階を賜ったので、その祝いを伝える時に詠んでおくった」歌ということ。 「かうぶりたまる」とは従五位下に叙せられること。「よろこび」は官位の昇進(の祝い)のこと。契沖「古今余材抄」によれば、従七位上だった石上並松が従五位下になったのは 886年一月、という記述が 
「三代実録」にあるそうである。当時の天皇は光孝天皇。

  歌の意味は、
日の光が籔も区別することなく照らすように、あまねく照らすお恵みにより、石上の古い里にも花が咲いた、ということ。次の藤原関雄の歌もその詞書から「日の光」で指していることは同じであるが、内容は不遇を嘆くものとなっており、秋歌下に分類されている。

 
282   
   奥山の  いはがきもみぢ  散りぬべし  照る 日の光   見る時なくて
     
        また、「いそのかみ−ふる」という言葉のつながりは、「石上−布留」という地名つながりと、石上に安康天皇・仁賢天皇の古い都があったことから 「石上−古」というつながりがあり、以下の四つの歌でも使われている。

 
144   
   いそのかみ    ふるきみやこの   郭公  声ばかりこそ  昔なりけれ
     
679   
   いそのかみ    ふるのなか道   なかなかに  見ずは恋しと  思はましやは
     
886   
   いそのかみ    ふるから小野の   もとかしは  もとの心は  忘られなくに
     
1022   
   いそのかみ    ふりにし恋の   かみさびて  たたるに我は  いぞ寝かねつる
     
        これを 「いそのかみ」という言葉を使った一覧としてまとめ直しておくと次の通り。

 
     
144番    いそのかみ  ふるきみやこの 郭公  素性法師
679番    いそのかみ  ふるのなか道 なかなかに  紀貫之
870番    いそのかみ  ふりにし里に 花も咲きけり  布留今道
886番    いそのかみ  ふるから小野の もとかしは  読人知らず
1022番    いそのかみ  ふりにし恋の かみさびて  読人知らず


 
        「古る」という動詞を使った歌の一覧については 248番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/11 )   
(改 2004/02/25 )   
 
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