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       題しらず 読人知らず  
910   
   わたつみの  沖つ潮あひに  浮かぶ泡の  消えぬものから  寄る方もなし
          
     
  • わたつみ ・・・ 海
  • 潮あひ ・・・ 潮流のぶつかるところ
  
海の沖の潮の合流点に浮かぶ泡のようなこの身は、消えないものの頼るところもない、という歌。雑歌上の 「老い」の歌群と 「海」の歌群の接点に置かれている。

  "沖つ潮あひ" という表現が妙に具体的で面白い。陸地が見えず漂っている感じで、漠然とした不安感を海の広さと深さで表わしているような感じがする。 「よるべなみ 身をこそ遠く へだてつれ」という 619番の歌が思い出される。 "寄る方もなし" の「方」という言葉を使った歌の一覧は 201番の歌のページを参照。 "消えぬものから" は「消えないけれど」という逆接で、次の在原元方の歌での 「あらぬものから」と同じ使われ方である。 「ものから」という言葉を使った歌の一覧は 147番の歌のページを参照。

 
206   
   待つ人に  あらぬものから   初雁の  今朝鳴く声の  めづらしきかな
     
        「わたつみ+泡」という歌には次の伊勢の歌があるが、こちらは言葉の流れの勢いで 「泡と浮く袖」と出したように見えてイメージがややつかみづらい。涙で濡れる一方で、押さえながらも浮ついてしまう気持ちを、空気を含んだ浮き袋の感じで表わしたものか。

 
733   
   わたつみと   荒れにし床を  今さらに  はらはば袖や  泡と浮きなむ  
     
        また、「沖へ」の解釈が微妙だが、「沖」「寄らない」ということでは次の読人知らずの歌も一緒に見ておきたい。

 
532   
   沖へにも    よらぬ玉藻の   浪の上に  乱れてのみや  恋ひ渡りなむ
     

( 2001/10/18 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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