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       初瀬にまうづる道に、奈良の京にやどれりける時よめる 二条  
986   
   人ふるす  里をいとひて  こしかども  奈良のみやこも  うき名なりけり
          
     
  • ふるす ・・・ 古いものとして見捨てる (古す)
  • いとひて ・・・ 嫌だと思って、避けて (厭ふ)
  詞書は 「長谷寺に参詣しに行く途中で奈良の都の宿に泊まった時に詠んだ」歌ということ。長谷寺は、現在の奈良県桜井市大字初瀬(はせ)にある寺。二条は二条の后(=藤原高子)とは別人。源至の娘と言われているが伝不詳、生没年不明。

  歌の意味は、
ふるさとは人を古いものとする里ということで、それを避けてやって来たのだけれど、よく考えるとこの奈良の都も 「ふるさと」と呼ばれる嫌な名前であったのでした、ということ。 「奈良の都」が 「ふるさと」と呼ばれることを前提としたもので、「古」を避けて 「都」についたけれど、という趣向のようである。

  "こしかども" は、一見 「こし+かども」のように見えるが、「こ+しか+ども」で、「来(く)」の未然形+過去の助動詞「き」の已然形+「ども」。 「来たのだけれども」ということ。次の大江千里の歌の 「ひちにしかども」も 「ひち+に+しか+ども」という似たようなかたちをしている。過去の助動詞「き」の已然形の 「しか」を使った歌の一覧は 172番の歌のページを参照。

 
577   
   ねになきて  ひちにしかども   春雨に  濡れにし袖と  とはば答へむ
     
        "人ふるす里" の「ふるす」は四段活用の「古す」という動詞の連体形。誹諧歌には 「ふるす」を 「古巣」に掛けた次のような読人知らずの歌もある。 「古す」を使った歌の一覧については 248番の歌のページを参照。

 
1046   
   うぐひすの  去年の宿りの  ふるすとや   我には人の  つれなかるらむ
     

( 2001/10/22 )   
(改 2004/02/25 )   
 
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