藤原のとしもとの朝臣の右近の中将にてすみ侍りけるざうしの、身まかりてのち人もすまずなりにけるに、秋の夜ふけてものよりまうできけるついでに見入れければ、もとありし前裁もいとしげく荒れたりけるを見て、はやくそこに侍りければ昔を思ひやりてよみける | 御春有輔 | |||
853 |
|
藤原利基(としもと)は藤原高藤の兄で藤原兼輔の父。 「ざうし」(曹司)は宮中に置かれた役人・女房達の住む部屋。「前裁」は室内から鑑賞できるように置かれた庭の植え込みのことである。 あなたが植えた一かたまりの薄は、虫の音がしきりにする草の繁った野辺ともなりました、という歌。 「寂しい・荒れた」と言わずに "ひとむら薄" が "虫の音しげき野辺" となった、とする表現がすばらしく、語の使い方に無駄のない優れた歌である。この歌の一つ前に河原左大臣・源融(とおる)の庭を詠んだ次の貫之の歌があり、それも悪い歌ではないが、この有輔の歌の前では引き立て役に見えてしまうほどである。 |
852 |
|
|||
また、この歌の 「薄」は、次の伊勢の七条の后(=藤原温子)の死を悼む長歌や、242番の平貞文の「今よりは 植ゑてだに見じ 花薄」という歌を思い出させる。 |
1006 |
|
|||
そして "君が植ゑし" という言葉は、次の貫之の歌も連想させる。 |
851 |
|
|||||||
ただ、有輔の歌はもう一つ 629番に恋歌が採られているが、残念ながら、そちらの方はあまりよい出来とは言えないようである。 「しげし」という言葉を使った歌の一覧は 550番の歌のページを、「なりにけるかな」という言葉を使った歌の一覧は 267番の歌のページを参照。 |
( 2001/12/12 ) (改 2004/12/27 ) |
前歌 戻る 次歌 |