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       寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 大江千里  
14   
   うぐひすの  谷よりいづる  声なくは  春くることを  誰か知らまし
          
        大江千里は生没年不詳。901年中務少丞、902年兵部少丞、903年兵部大丞。少丞(しょうじょう)は従六位上相当。古今和歌集にはこの歌を含めて十首が採られている。

  歌の内容は文字通りで、
ウグイスが谷から出てくる声がなければ、春が来ることを誰が知ろうか、という春告鳥としてのウグイスを詠んだものである。歌の趣旨は 11番の壬生忠岑の歌と似ている。

  一見、面白味のない歌のようだが、秋歌下にある 302番の坂上是則の「水の秋をば 誰か知らまし」という竜田川の歌と並べてみると、「春」としての輝きを放つという不思議な歌である。

  "声なくは" の 「は」は仮定を表す係助詞の 「は」であり、「なくは」というかたちで使われている歌を一覧にすると次の通り。

 
     
14番    うぐひすの 谷よりいづる  声なくは  大江千里
502番    あはれてふ  ことだになくは  読人知らず
572番    君恋ふる 涙しなくは  唐衣  紀貫之
746番    形見こそ 今はあたなれ  これなくは  読人知らず
793番    みなせ川 ありて行く水  なくはこそ  読人知らず


 
        ちなみに 「なく」は 「な+く」で、打消しの助動詞「ず」の未然形+準体助詞「く」ということである。反実仮想の助動詞「まし」が使われている歌の一覧は 46番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/15 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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