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       藤原の後蔭が唐物のつかひに、ながつきのつごもりがたにまかりけるに、うへのをのこども酒たうびけるついでによめる 藤原兼茂  
385   
   もろともに  なきてとどめよ  きりぎりす  秋の別れは  惜しくやはあらぬ
          
     
  • もろともに ・・・ 一緒に
  • きりぎりす ・・・ コオロギ
  詞書にある藤原後蔭(のちかげ)は生没年不詳、919年従四位下。古今和歌集には春歌下に次の一首が採られている。

 
108   
   花の散る  ことやわびしき  春霞  たつたの山の  うぐひすの声
     
        詞書の内容は、後蔭が 「唐物の使い」(唐物交易使:中国からの商船の積荷検査および買い付けを大宰府で行なう役目)で九月(ながつき)末に出向くにあたって殿上人が酒を交わしている席で詠まれた歌ということ。

  
コオロギよ、一緒に鳴いて止めてくれ、秋の別れは惜しくはないか、という歌。一つ前の 384番の貫之の「音羽山 こだかく鳴きて 郭公」と「鳴く」つながりとして置かれているようである。 「ほととぎす」が夏、「きりぎりす」が秋の別れを表しているとも考えられ、さらにこの歌では詞書に 「ながつきのつごもりがた」(=九月の末日あたり)とあることから、コオロギは秋の終りを惜しみ、我々は後蔭との別れを惜しむ、さあ一緒に泣いて留めよう、という趣向になっている。秋の終りでコオロギの鳴き声が弱いのを、もっと強く鳴けと言っているようにも見える。

  「やは」を使った歌の一覧については 106番の歌のページを参照。

  古今和歌集の中で 「きりぎりす」を使った歌は、この歌を含め六首あり、この歌が秋の終りであるのに対して、次の物名の歌は秋のはじめに 「きりぎりす」を合わせている。

 
432   
   秋はきぬ   いまやまがきの  きりぎりす   夜な夜な鳴かむ  風の寒さに
     
         「きりぎりす」を詠った歌の一覧については 244番の歌のページを参照。また、同じ離別歌の中で、人以外のものに寄せて 「とどめよ」と詠っている歌としては、難波万雄(なにわのよろずを)の次の歌がある。

 
374   
   あふ坂の  関しまさしき  ものならば  あかず別るる  君を とどめよ  
     

( 2001/09/05 )   
(改 2004/02/15 )   
 
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