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       返し 読人知らず  
477   
   知る知らぬ  なにかあやなく  わきて言はむ  思ひのみこそ  しるべなりけれ
          
     
  • あやなく ・・・ 無意味に/無駄に
  • しるべ ・・・ 道案内
  これは一つ前の 476番の業平の歌に対する返しである。
知っているとか知らないとか、無駄なのはそうして考えていることであって、もし恋しい気持ちがあるならそれが案内となるでしょうに、という歌。元の業平の歌の言葉をうまくとらえていてスキのない返歌である。

  「見ずもあらず 見もせぬ」に対して "知る知らぬ" と返し、「あやなく今日や ながめくらさむ」に対して "なにかあやなく  わきて言はむ" と答えて、「知る−知らぬ−しるべ」と 「し」の音をつないで 「思ひのしるべ」で結んでいる。歌の前半では業平の求愛に積極的にOKを出しているようで、後半で「一途な思いがあるならば」と押さえている点もわかりやすい。 「思い」を道しるべとして辿って来なければ 「今日」どころか永遠に迷うばかりですよ、とたしなめているような感じでもある。

  「わきて」という言葉を使った歌については、255番の歌のページを参照。 "思ひ" の「ひ」には 
「火」が掛けられていて、それを 「しるべ」とせよ、と言っていると見る説もある。 「しるべ」という言葉を使った歌の一覧は 13番の歌のページを参照。

  この歌と 476番の業平の歌でやり取りされている 「あやなし」という言葉が使われている歌には次のようなものがある。

 
41   
   春の夜の  闇は あやなし   梅の花  色こそ見えね  香やは隠るる
     
229   
   女郎花  おほかる野辺に  宿りせば あやなく あだの  名をやたちなむ
     
629   
   あやなくて   まだきなき名の  竜田川  渡らでやまむ  ものならなくに
     
        また、「あやな」として使われているものは、次の読人知らずの二首である。

 
123   
   山吹は あやな な咲きそ  花見むと  植ゑけむ君が  今宵来なくに
     
549   
   人目もる  我かは あやな   花薄  などか穂にいでて  恋ひずしもあらむ
     
        「あや」(文)つながりで、似たように使われている言葉としては、読人知らずの次の歌もある。

 
469   
   郭公  鳴くや五月の  あやめ草 あやめも知らぬ   恋もするかな
     
        これを表にまとめ直すとと次の通り。

 
     
41番    春の夜の  闇はあやなし 梅の花  凡河内躬恒
123番    山吹は  あやなな咲きそ  読人知らず
229番    あやなくあだの  名をやたちなむ  小野美材
469番    あやめも知らぬ  恋もするかな  読人知らず
476番    あやなく今日や  ながめくらさむ  在原業平
477番    知る知らぬ  なにかあやなく わきて言はむ  読人知らず
549番    人目もる  我かはあやな 花薄  読人知らず
629番    あやなく  まだきなき名の 竜田川  御春有輔


 
( 2001/09/10 )   
(改 2004/03/08 )   
 
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