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       題しらず 読人知らず  
702   
   梓弓  ひき野のつづら  末つひに  我が思ふ人に  ことのしげけむ
          
     
  • つづら ・・・ つる草の総称 (葛)
  • 末つひに ・・・ ゆくゆく最終的には
  • ことのしげけむ ・・・ うるさい噂が立つだろう
  この歌には 「このうたは、ある人、天の帝の近江のうね女にたまひけるとなむ申す」という左注がついている。 「天の帝」は単に天皇を指すとも、天智天皇を指すものとも言われている。 「うね女」は采女で、天皇の側に仕える女官。

  「梓弓−引く−ひき野」でそこに生える 「つづら」から 「末(草木の先端)−末(ゆく末)」を掛けて、
これから先ついには、自分の思う人に対して世間の人があれこれ言うことだろう、という歌である。 
「ひき野」は仁徳天皇陵の東南、現在の大阪府堺市日置荘西町(ひきしょうにしまち)あたりと言われている。

  つる草がからみつき生い茂る様子を 「言(こと)しげし」というイメージに合わせている歌である。 
"しげけむ" は 「しげけ+む」で 「しげけ」は 「繁し」という形容詞の古い未然形のかたち。それに推量の助動詞「む」の終止形がついている。この形容詞の古い未然形のかたちに推量の助動詞「む」が接続されている例は、古今和歌集の中の歌ではこの歌だけである。 「言しげし」という歌の一覧については 550番の歌のページを参照。

  「末つひに」とは 「末」も 「つひに(終に)」も似たような感じだが、「この先、最終的には」というニュアンスであろう。 「つひに」という言葉を使った歌の一覧は 707番の歌のページを参照。

  梓弓と言えば、「はる」に掛けられている歌が三首、「ひく」に掛けられているものが二首となっているが、次の読人知らずの歌は何に掛けられているのか少しわかりづらい。

 
907   
   梓弓   磯辺の小松  たが世にか  よろづ世かねて  種をまきけむ
     
        これは 「磯辺」の 「い」に 「弓を射る」の 「射」を掛けているとされ、イメージとしては 「小松を引く」(=子(ね)の日に引いて長寿を願う)の 「引く」でもあるのだろう。 「梓弓」という枕詞を使った歌の一覧は 20番の歌のページを参照。 「つづら」を使った歌としては、恋歌四に次の寵(うつく)の歌がある。

 
742   
   山がつの  かきほにはへる  あをつづら   人はくれども  ことづてもなし
     
        また、この 「ひき野のつづら」の歌に続く次の歌にも左注が付いており、二つを贈答歌と見る伝承があったことがわかる。

 
703   
   夏引きの  手引きの糸を  くりかへし  ことしげくとも   絶えむと思ふな
     

( 2001/09/21 )   
(改 2004/02/25 )   
 
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