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       題しらず 読人知らず  
550   
   淡雪の  たまればかてに  くだけつつ  我が物思ひの  しげきころかな
          
     
  • かてに ・・・ できずに/耐え切れずに
  
積もるわけではない淡雪(=淡い思い)でも時が経てば溜まるもので、それはついには耐え切れずに崩れはじめる。しかも雪は降ることを止めないので、降っては崩れ降っては崩れ、それを見ていると物思いの多い近頃の自分に似ていることだ、という歌。

  何故か古今和歌集では、雪は 「深いもの」と詠っているものがなく、続く 551番の歌のように、雪は 「消えるもの」という歌が多い。ここでも 「雪が積もる−思いがつのる」とは言わずに、「淡雪が積もらず溜まる」ということを詠んでいる。

  "かてに" は、「かて+に」で、「かて」は 「できる」という意味の動詞「かつ」の未然形、「に」は打消しの助動詞「ず」の古い連用形である。 「かつ」は一般的には補助動詞として使われるが、ここでは前にとる動詞がないため、単独の動詞と見なされる。 「かつ」が補助動詞として使われ、「かてに」が濁音化して「がてに」となったかたちで使われている歌の一覧については 75番の歌のページを参照。ただ、その 75番の歌の「雪ぞ降りつつ 消えがてにする」というフレーズを見ると、この歌の場合の 「かてに」も、「消えがてに」の 「消え」が省かれたもののようにも思われる。つまり、「普通は消えやすい淡雪も、溜まれば消えづらくなって最後には崩れてゆくように...」と言っているとも考えられる。

  この歌の "くだけつつ " の 「くだく」は下ニ段活用の自動詞「砕く」であり、それには 「砕ける」という意味と 「思い乱れる」という意味がある。同じ 「くだく」でも四段活用の 「砕く」は他動詞であり、それが使われている歌としては、379番の「心をぬさと くだく旅かな」という良岑秀崇の歌がある。

  "しげき"の元は 「しげし(繁し)」で、その意味は、草木が繁るように 「数が多い/絶え間がない」ということ。気持ちが 「しげし」というのは、その量が多く・密度が高く・消えることがない、というイメージであろう。この歌では "物思ひ" について言われているが、「しげし」と詠われているものを整理してみると次のようになる。

 
        [物思ひ/憂きこと]  
     
550番    我が物思ひの  しげきころかな  読人知らず
957番    竹の子の うき節しげき  世とは知らずや  凡河内躬恒
965番    うきことしげく  思はずもがな  平貞文


 
        [恋]  
     
551番    降る雪の けぬとか言はむ  恋のしげき  読人知らず
560番    み山隠れの 草なれや  しげさまされど  小野美材
604番    しげき我が恋  人知るらめや  紀貫之
1033番    春の野の しげき草葉の  妻恋ひに  平貞文


 
        [言(の葉)]  
     
702番    我が思ふ人に  ことのしげけ  読人知らず
703番    ことしげくとも  絶えむと思ふな  読人知らず
704番    里人の ことは夏野の  しげくとも  読人知らず
716番    空蝉の 世の人ごとの  しげけれ  読人知らず
958番    言の葉しげき  呉竹の  読人知らず


 
        [その他] (「しげる」を含む)  
     
462番    夏草の 上はしげれ  沼水の  壬生忠岑
538番    浮草の 上はしげれ  淵なれや  読人知らず
766番    忘れ草 夢ぢにさへや  おひしげるらむ  読人知らず
853番    ひとむら薄 虫の音の  しげき野辺とも  御春有輔
1074番    さかき葉は 神のみまへに  しげりあひにけり  読人知らず


 
( 2001/11/21 )   
(改 2004/02/25 )   
 
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