|
|
|
三輪山をそのようにまで隠すのか、春霞よ、きっと人に知られぬ花が咲いているのだろうな、という歌。三輪山は奈良県桜井市の三輪山で、万葉集・巻一18に額田王の次のような歌がある。
三輪山を しかも隠すか 雲だにも 心あらなも 隠さふべしや
この歌の 「雲」を "春霞" に代えて 「花」を添えた感じで、柔らかな調べになっている。三輪山といえば古事記・日本書紀などで大物主の神が蛇に姿を変えて女の元に通うという説話が有名だが、詞書でわざわざ 「春のうたとてよめる」とことわっているのは、作者が貫之ということを考えると逆に額田王の歌や三輪山伝説を見て欲しいという屈折した思いがあるような感じがしないでもない。 "しかも隠すか" と詠っている春霞をとぐろを巻いた大蛇の神に、花をその花嫁に見立てているというのは考えすぎか。
春霞が花(桜)を隠すという歌は春歌上・下の中にもいくつかあるが、その中で、同じ貫之の58番の歌には 「誰しかも」と、意味は異なるが 「しかも」という語が含まれていて、並べて見ると面白い。また、春歌以外で春霞が山を隠すという点に焦点を合わせた歌としては、羇旅歌に置かれた次の乙(おと)の歌がある。 「春霞」を詠った歌の一覧は 210番の歌のページを参照。
|
|