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       題しらず 読人知らず  
210   
   春霞  かすみていにし  雁がねは  今ぞ鳴くなる  秋霧の上に
          
     
  • 雁がね ・・・ 雁の歌語 (本来は雁の鳴き声を指す)
  
春霞がかかった時に帰っていった雁は、今鳴いている、秋霧の上空に、という歌。 「春−秋」「霞−霧」の対比が少々露骨だが、雁の出現を霧の上にぼんやりと見せて、「来る」という言葉を使わずに、その声で存在を表している効果を味わいたい。

  "かすみていにし" はひとつの言葉のようにも見えるが、「かすみて往ぬ」という言葉があるわけではなく、意味としては「春霞かすみて/往にし雁がね」ということである。 「はるがすみ−かすみ」の 「かすみ」の繰り返しは、「ね」という似た二音を持つ言葉とも響き合っている。 「鳴くなる」という言葉を使った歌の一覧は 1071番の歌のページを参照。

  この歌では 「春霞/秋霧」が一つの歌の中で詠まれているが、「春霞」と 「秋霧」が詠われている歌を一覧にしてみると次の通り。

 
        [春霞]  
     
3番    春霞  立てるやいづこ み吉野の  読人知らず
23番    の着る  の衣 ぬきを薄み  在原行平
31番    春霞  立つを見捨てて ゆく雁は  伊勢
51番    春霞  峰にもをにも 立ち隠しつつ  読人知らず
58番    春霞  立ち隠すらむ 山の桜を  紀貫之
69番    春霞  たなびく山の 桜花  読人知らず
79番    春霞  何隠すらむ 桜花  紀貫之
91番    花の色は  にこめて 見せずとも  良岑宗貞
94番    春霞  人に知られぬ 花や咲くらむ  紀貫之
102番    春霞  色のちぐさに 見えつるは  藤原興風
103番    立つ  の山辺は 遠けれど  在原元方
108番    春霞  たつたの山の うぐひすの声  藤原後蔭
130番    春霞  かへる道にし たちぬと思へば  在原元方
210番    春霞  かすみていにし 雁がねは  読人知らず
333番    春霞  立ちなばみ雪 まれにこそ見め  読人知らず
370番    春霞  立ち別れなば 恋しかるべし  紀利貞
413番    山かくす  春の霞ぞ うらめしき  乙
465番    春霞  なかしかよひぢ なかりせば  在原滋春
675番    春霞  野にも山にも 立ち満ちにけり  読人知らず
684番    春霞  たなびく山の 桜花  紀友則
999番    春霞  たちいでて君が 目にも見えなむ  藤原勝臣
1001番    春霞  よそにも人に あはむと思へば  読人知らず
1002番    春霞  思ひ乱れて  紀貫之
1031番    春霞  たなびく野辺の 若菜にも  藤原興風
1032番    春霞  かからぬ山も あらじと思へば  読人知らず


 
        [秋霧]  
     
210番    雁がねは  今ぞ鳴くなる 秋霧の上に  読人知らず
235番    女郎花  秋霧にのみ 立ち隠るらむ  壬生忠岑
265番    秋霧  佐保の山辺を 立ち隠すらむ  紀友則
266番    秋霧  今朝はな立ちそ 佐保山の  読人知らず
386番    秋霧  共に立ちいでて 別れなば  平元規
580番    秋霧  晴るる時なき 心には  凡河内躬恒
1018番    秋霧  晴れて曇れば 女郎花  読人知らず


 
( 2001/11/20 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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