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       やよひのつごもりの日、雨の降りけるに、藤の花を折りて人につかはしける 在原業平  
133   
   濡れつつぞ  しひて折りつる  年の内に  春はいくかも  あらじと思へば
          
     
  • いくかも ・・・ 何日も
  
袖が濡れながらも、あえて折ったのだ、もう今年の内に春は何日もないだろうと思ったので、という歌。他の業平の歌と同様、歌の中に対象を具体的に詠み込んでいないので、詞書がなければ折ったのが 「藤の花」だとはわからない。

 詞書にある 「やよひのつごもりの日」とは旧暦三月の末日ということ。末日なのに 「いくかもあらじ」とは合わないように見えるため、「つごもりの日」を末日とは見ずに 「月こもりの日」の意味とする説もある。また本居宣長の「古今和歌集遠鏡」では、「
春ハマダイクカモアルデハアルマイ  モウ当年ノ内ニハ  タツタケフ一日ナラデハ春ハナイ」と訳し、「何日もないだろう (すなわち今日で春は終わり)」という感じで見ているが微妙なところである。

  ここでは 「つごもりの日」は末日とし、暦の春(=三月の末)が過ぎても実質の春がそこでぴたりと終わるわけではない、という見方から歌の意味は、濡れながらもあえて折りました、この年の春はもう幾日もないと思ったので、と解釈しておく。

  「あらじ」という言葉を使った歌の一覧は 934番の歌のページを参照。

  また、この歌はどことなく 21番の仁和帝(=光孝天皇)の「君がため 春の野にいでて 若菜つむ」という歌を思い出させる。それに合わせて 「雪に若菜、雨に藤」という趣向なのかもしれない。

  「しひて」という言葉を使った歌には次のようなものがある。

 
     
133番    濡れつつぞ  しひて折りつる 年の内に  在原業平
403番    しひて行く  人をとどめむ 桜花  読人知らず
569番    わびぬれば  しひて忘れむと 思へども  藤原興風
739番    しひて行く  駒のあし折れ 前の棚橋  読人知らず


 
        「いくか(幾日)」という言葉が使われている他の歌については 18番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/15 )   
(改 2004/03/07 )   
 
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