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       題しらず 読人知らず  
669   
   おほかたは  我が名もみなと  こぎいでなむ  世をうみべたに  みるめすくなし
          
     
  • おほかたは ・・・ 大体のところ (大方は)
  • みなと ・・・ 川が海にそそぐところ (湊)
  • うみべた ・・・ 海辺
  • みるめ ・・・ 海草の名前 (海松布)
  
もう、自分の名も世間に出してしまおう、憂き世を嘆いたままでいても逢うチャンスは少ないから、という歌。わかりづらい歌であるが、海辺に海松布が少ないのなら舟刈りに行こうというイメージに合わせて 「もう自分の恋を隠すのはやめよう」ということを言っているようである。

  ここでの "おほかたは" というのは、「細かいことは言わずに」というようなニュアンスと思える。 
「おほかた」という言葉を使った他の歌については 879番の歌のページを参照。 "我が名" は、恋の浮名ということ。 "こぎいでなむ" の「なむ」は完了の助動詞「ぬ」の未然形と推量の助動詞「む」による連語で、連用形とつながって 「〜してしまおう」(let's〜) あるいは 「きっと〜だろう」という意味で、ここでは前者であろう。 「みなと」に 「皆と」が掛かっているかどうかは微妙なところで、薄く掛かっているとすれば 「他の皆と同じように」という感じか。 "世をうみべた" という部分には 「世を憂」ということが掛かっている。 「みるめ」を 「海松布−見る目(=逢うチャンス)」に掛けているのは、「みるめ」という言葉を使った他の五つの歌と同じである。

 
531   
   はやき瀬に  みるめ おひせば  我が袖の  涙の川に  植ゑましものを
     
595   
   しきたへの  枕の下に  海はあれど  人を みるめ は  おひずぞありける
     
623   
   みるめ なき  我が身を浦と  知らねばや  かれなで海人の  足たゆくくる
     
665   
   みつ潮の  流れひるまを  あひがたみ みるめ のうらに  よるをこそ待て
     
683   
   伊勢の海人の  朝な夕なに  かづくてふ みるめ に人を  あくよしもがな
     
        今これを一覧にしてみると次の通り。似たような言葉として、「浮き布−憂き目」というものがあり、それを使った歌の一覧は 755番の歌のページを参照。

 
     
531番    はやき瀬に  みるめおひせば  読人知らず
595番    人をみるめ  おひずぞありける  紀友則
623番    みるめなき  我が身を浦と 知らねばや  小野小町
665番    みるめのうらに  よるをこそ待て  清原深養父
669番    世をうみべたに  みるめすくなし  読人知らず
683番    みるめに人を  あくよしもがな  読人知らず


 
        「世を憂」というために 「世をう〜」という表現をしている歌の一覧は、798番の歌のページを参照。

 
( 2001/05/25 )   
(改 2004/03/08 )   
 
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