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       題しらず 景式王  
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   唐衣  なれば身にこそ  まつはれめ  かけてのみやは  恋ひむと思ひし
          
     
  • なれば ・・・ 馴れれば
  • かけて ・・・ 心にかけて
  
唐衣は馴れて柔らかくなれば身にまつわるものだが、このように心に思うだけの関係になるとは思っただろうか、という歌。

  「こそ」と 「や」の係り結びがどうも嫌な感じのする恋の終わりの段階の歌である。 「唐衣」が 「馴る」という歌として、410番の業平の「唐衣 きつつなれにし つましあれば」という歌が思い出される。ちなみに景式王(かげのりのおおきみ)は、業平と親交の深かった惟喬親王の 同母弟である惟条(これえだ)親王の子である。

  "まつはれめ" は、「まつはれ+め」で 「まつはる(纏はる)」の未然形+推量の助動詞「む」の已然形。 "かけてのみやは" の 「かく」は 「衣を掛けておく」ということと 「心にかける」ということを掛けていて、「のみやは」の 「やは」は反語を表している。 「のみやは」という言葉が使われている他の歌としては、835番の「寝るが内に 見るをのみやは 夢と言は」という忠岑の歌があり、この 
「む」も推量の助動詞「む」の連体形で 「やは」は反語を表していると考えられる。

  「唐衣」を使った歌の一覧は 572番の歌のページを参照。 「こそ」と 「やは」がペアで使われている歌の一覧は 41番の歌のページを、 「のみや」が使われている歌の一覧は 55番の歌のページを、 「(思ひを)かく」が使われている歌の一覧については 483番の歌のページを参照。

  また、"恋ひと思ひ" の 「恋ひむ」の 「む」は推量の助動詞「む」の連体形で、「思ひし」の 
「し」も過去の助動詞「き」の連体形。 「恋ひむ(もの)と思ひし」という感じか。 「や」の係り結びを受けているのがどちらの連体形なのかという考察が 
「古今和歌集全評釈  補訂版 」 (1987 竹岡正夫 右文書院 ISBN 4-8421-9605-X) にある。

 
( 2001/12/04 )   
(改 2004/02/27 )   
 
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