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       貫之がいづみの国に侍りける時に、大和より越えまうできてよみてつかはしける 藤原忠房  
914   
   君を思ひ  おきつの浜に  鳴くたづの  尋ねくればぞ  ありとだに聞く
          
     
  • たづ ・・・ 鶴
  • あり ・・・ 元気である
  詞書は 「貫之が和泉の国にいた時に、忠房が大和の国から国境を越えてやってきて詠んでおくった」歌ということ。詞書にある 「いづみ」(和泉)は現在の大阪府の南部、「大和」は現在の奈良県。歌の意味は、
あなたのことが気がかりだったのですが、この度、どうかと思って興津の浜にやってきたところ、どうやらお元気そうだと聞きました、ということ。 「おきつ(興津)の浜」は現在の大阪府泉大津市あたりの海岸。 「たづ」で 「尋ぬ」を引き出しており、鶴が鳴くということを「聞く」に合わせている。 「鶴」を詠った歌の一覧は 919番の歌のページを参照。

  詞書には特に貫之が病気だったとも書かれていないが、 "おきつの浜" に掛けてある「思ひ置く」(=心に残す)という言葉や、 "ありとだに聞く" という感じからは、忠房が貫之を見舞っているような雰囲気がある。「あり」は 411番の業平の歌の「ありやなしやと」と同じニュアンスであり、「だに」は 810番の伊勢の歌の 「なき名ぞとだに」などと同じく 「少なくとも」という感じである。 「と+だに」というかたちを使った歌の一覧は 131番の歌のページを参照。

  「浜−鶴」で挨拶したこの忠房の歌に対し、「浜−松」で答えた次の貫之の返しがついている。

 
915   
   沖つ浪  たかしの浜の   浜松の  名にこそ君を  待ちわたりつれ
     
        ちなみに藤原忠房は 922年に大和守になっているが、古今和歌集の成立時期からして、この歌はそれ以前のものと思われる。  
( 2001/11/26 )   
(改 2004/02/12 )   
 
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