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詞書は 「宇多上皇が大井川へ御幸を行なった日、「鶴、州に立てり」ということを題にして歌を詠ませた」時の歌ということ。 「法皇、西川におはしましたりける日」とは、宇多上皇が大井川へ御幸を行なった 907年九月十日。
鶴の立っている川辺を見ると、それは吹く風により寄せてきたまま、返らない波かと見える、という歌。恐らくこの歌は、複数の鶴が風に乗って舞い降りて川辺に止まった様子を、"寄せてかへらぬ" 白浪と見立てたものであろう。 「鶴洲に舞ひ降りたり」と言った方が近いような気がするが、それでは題そのままでつまらないかもしれない。 「立てり」という結果の状態から、その前の舞い降りる姿に思いをはせて、それを 「川」からのつながりで 「寄せる浪」とし、再び 「立てり」に戻って、「寄せてかへらぬ浪」と着地させたところにこの歌の面白味がある。また "吹く風に" という言葉の差し込み方が絶妙である。 「吹く風」を詠った歌の一覧については 99番の歌のページを参照。
貫之の歌としては、89番の「桜花 散りぬる風の なごりには」の歌や、百人一首に採られている次の歌などが特に有名だが、それらよりも貫之の技量がよく感じられる歌であるような気がする。
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