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       かひうた 読人知らず  
1097   
   甲斐がねを  さやにも見しか  けけれなく  横ほりふせる  小夜の中山
          
     
  • 甲斐がね ・・・ 甲斐の山 (甲斐が嶺)
  • さやに ・・・ はっきりと
  • けけれなく ・・・ 心無く
  • 横ほり ・・・ 横たわる (横ほる)
  
甲斐の山をはっきりと見たいものだが、心無くその前に横たわって見せてくれない 「小夜の中山」である、という歌。 "小夜の中山" は、現在の静岡県掛川市にあり、そこは遠江(とおとうみ)国なので、甲斐国の外から甲斐の山々を恋しく思う歌と見てよいだろう。また、この歌の場合、 "さやにも見しが" の 「さや」に合わせて 「小夜」は 「さよ」ではなく 「さや」と読んだ方がよさそうだが、音が似ているのでどちらでもいいような気もする。 「さや(か)」(清か)ということを詠った歌の一覧は 
169番の歌のページを参照。

  "見しか" の 「しか」は願望の終助詞「しか」で 「見たいなあ」ということ。 「しが」「てしか/てしが」も同じである。古今和歌集の歌で使われている例の一覧は次の通り。

 
     
126番    そことも言はぬ  旅寝してしか  素性法師
695番    あな恋し 今も見てしか  山がつの  読人知らず
1026番    耳なしの 山のくちなし  えてしが  読人知らず
1031番    たなびく野辺の 若菜にも  なりみてしか  藤原興風
1097番    甲斐がねを  さやにも見しか  読人知らず


 
        ただし、同じ 「しか」でも 172番の歌の「昨日こそ 早苗とりしか」などの 「しか」は過去の助動詞「き」の已然形である。

 
( 2001/12/11 )   
(改 2009/08/12 )   
 
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