Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻二

       寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 紀貫之  
118   
   吹く風と  谷の水とし  なかりせば  み山隠れの  花を見ましや
          
     
  • み山隠れ ・・・ 深い山奥の
  
山に吹く風と谷に流れる水がなかったとしたら、どうして奥山に隠された花を見ることができるだろうか、という歌。水が運んでくる散った後の花びらを見て、その咲いた状態を思うというところか。シンプルな歌であるが、川に落ちた地点との距離感と時間のずれが奥行きを感じさせる。

  表現としては "吹く風と  谷の水とし  なかりせば" という振りかぶり方が中心のように見えるが、歌の起点はやはり 「み山隠れの花」にあり、前半はそこから逆算して求めている感じである。 「吹く風」を詠った歌の一覧については 99番の歌のページを参照。

  「なかりせば」という言葉は、業平の 53番の「世の中に 絶えて桜の なかりせば」という歌を連想させ、「花・見ましや」という結びを持っている歌としては、63番に同じく業平の「消えずはありとも 花見ましや」という歌がある。 「まし」は、反実仮想の助動詞で、「そんなことはないだろうが」というニュアンスを含む仮想を表す。

  「ましや」というかたちで使われている歌をまとめてみると次の通り。

 
     
63番    消えずはありとも  花と見ましや  在原業平
107番    我うぐひすに  おとらましや  春澄洽子
118番    み山隠れの  花を見ましや  紀貫之
679番    見ずは恋しと  思はましや  紀貫之
796番    うつろふことも  惜しからましや  読人知らず


 
        その他のかたちで 「まし」を使っている歌については 46番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/03 )   
(改 2004/02/26 )   
 
前歌    戻る    次歌