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       題しらず 読人知らず  
186   
   我がために  くる秋にしも  あらなくに  虫の音聞けば  まづぞかなしき
          
        自分のために来る秋ではないのに、虫の音を聞くとまず自分が哀しい気持ちになってしまう、という歌で、虫の音から哀しみを感じるという発想自体は平凡だが、それを 「一人知る秋」として 「虫の音」から入らずに言葉をバランスよく配している点はすばらしい。また、 "くる秋" と "まづ" によって、秋の虫が鳴き始めたという状況をうまく伝えている。

  古今和歌集の配列の順で言えば、秋歌上で虫の音の歌群が出現するのは、この歌から少し離れた藤原忠房の次の歌からである。

 
196   
  きりぎりす  いたくな鳴きそ  秋の夜の  長き思ひは  我ぞまされる
     
        恋歌にも虫の音について詠った次のような歌があるが、その数は多くない。

 
581   
   虫のごと    声 にたてては  なかねども  涙のみこそ  下に流るれ
     
853   
   君が植ゑし  ひとむら薄  虫の音の   しげき野辺とも  なりにけるかな
     
        また次のような藤原直子の歌もあるが、これは駄洒落つなぎなので、例外と見てよいだろう。

 
807   
   海人の刈る  藻にすむ 虫の   我からと  ね をこそなかめ  世をばうらみじ
     
        ちなみに「あらなくに」という言葉を使った歌には次のようなものがある。

 
     
186番    我がために くる秋にしも  あらなくに  読人知らず
381番    別れてふ ことは色にも  あらなくに  紀貫之
597番    我が恋は 知らぬ山ぢに  あらなくに  紀貫之
727番    海人の住む 里のしるべに  あらなくに  小野小町


 
        「〜なくに」という言葉全般については 19番の歌のページを参照。また、「かなし」という言葉を使った歌の一覧については 578番の歌のページを参照。

 
( 2001/07/26 )   
(改 2004/01/12 )   
 
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