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"わたつみ" は本来海の神である「渡津海(あるいは綿津見)」からきている言葉で、「わたつうみ」と同じことである。この歌では特に神という意識はなく枕詞のように使われているが、解釈としては、「秋を司る竜田姫は地上の草木の色は変えるけれど、それは海の神の領域までには至らないので "浪の花" は白いままである」と見ても面白いかもしれない。
また、この歌は秋歌下のはじめから二番目にあり、一つ前の249番の歌と共に 「これさだのみこの家の歌合せ」の文屋康秀の歌とされるが、現存する 「是貞親王家歌合」には残っていない。古今和歌集の配列の順から言えば、前の歌と 「草木」つながりであると言える。
歌の内容は、草も木も秋には色が変わるのに、浪の上に咲く花には秋というものがないのだな、ということ。この歌で 「秋は草木は色が変わるのに浪の花は変わらないなあ」という発想から、歌となるまでの過程を考えてみると、四句目の 「浪の花」というところまでは比較的すんなりとつながるが、そこまで 「秋には」ということを封じ、最後に "浪の花にぞ 秋なかりける" と落としている様子は、なかなか手馴れた歌詠みであるように思われる。ただ、実際は "浪の花にぞ 秋なかりける" というフレーズを先に思いつき、そこからの逆算である可能性の方が高いが、読む方は頭から読むので 「なるほど」と思わせるのである。仮名序でいう 「言葉はたくみにて」という康秀のタレントがここに垣間見えるような気がする。
「浪の花」とは白波を花に見立てたもので、「浪−花」と詠っているものには次のような歌がある。
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