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       人の前裁に菊にむすびつけてうゑけるうた 在原業平  
268   
   植ゑし植ゑば  秋なき時や  咲かざらむ  花こそ散らめ  根さへ枯れめや
          
     
  • 前裁 ・・・ 庭の植え込み
  詞書の意味は「人の庭の植え込み(=前栽:せんざい)に菊を植える時にその菊に結び付けて植えた」歌ということ。歌の内容は、
こうして植えておけば、秋が来なくならない限り咲くだろう。花は散るとしても、根までは枯れるものか、ということなのだが、少しややこしい。

  まず "植ゑし植ゑば" とは何なのか。これは 「植う」という動詞の繰り返しによる強調である。 「し」は強調の副助詞であり、「ば」は仮定の接続助詞。「こうして植えておいたからには」という感じか。次に "秋なき時や  咲かざらむ" は直訳すると 「秋のない時は咲かないだろうか」ということで、ありえない前提による強い肯定を表わす。 「秋の来ないことはないのだから絶対に咲く」ということ。 "散らめ" と "枯れめ" は前者が "こそ" がついて肯定、後者は "さへ〜や" がついて強い疑問による否定となっている。 「たとえ花は散っても、根までは枯れようか(いや、枯れない→だから秋ごとに絶対咲く)」ということである。全体として語気が強く呪としての歌を感じさせる。 「さへ」を使った歌の一覧は 122番の歌のページを参照。

  古今和歌集に収められている業平の他の歌にも、この歌と似たような独特の同義語の反復を持つものがある。普通に考えると、三十一文字という限られた情報量の中では、このような無駄は避けられるべきということになるのだが、字余りといい、そうした堅苦しさにとらわれないところがひとつの歌風となっている。また、それは古今和歌集の撰者たちがそういうように集めたものだと言えるだろう。

 
879   
   おほかたは  月をもめでじ   これぞこの   つもれば人の  老いとなるもの
     
970   
   忘れては  夢かとぞ 思ふ    思ひきや   雪踏みわけて  君を見むとは
     
971   
   年をへて  住みこし里を   いでていなば   いとど深草  野とやなりなむ
     
        また次の二つは意味は反転していて同義語反復ではないが同じ字面が並んでいるものである。

 
476   
   見ずもあらず     見もせぬ 人の  恋しくは  あやなく今日や  ながめくらさむ
     
705   
   かずかずに   思ひ思はず   とひがたみ  身を知る雨は  降りぞまされる
     
        また、植物つながりということで言えば、868番の「野なる草木ぞ 別れざりける」という歌もどこかこの歌と通じるものを感じさせる。

 
( 2001/06/07 )   
(改 2004/02/10 )   
 
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