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       世の中のはかなきことを思ひけるをりに菊の花を見てよみける 紀貫之  
276   
   秋の菊  匂ふかぎりは  かざしてむ  花より先と  知らぬ我が身を
          
     
  • かざしてむ ・・・ 折って髪に挿そう (挿頭)
  
この秋の菊を折って、枯れるまで頭に飾ってみようか、花より先にこの世から消えるかもしれない我が身であるから、という歌。

  菊を 「かざす」のは 270番の友則の「露ながら 折りてかざさむ 菊の花」という歌にあるように長寿を願ってのことだが、「世の中のはかなきことを思ひけるをり」でのこの歌では、空しい行為ではあるけれど、というニュアンスで使われている。また、この歌の "匂ふ" は、その花が美しくある状態のことで、次の読人知らずの歌にも 「秋の菊−匂ふ」という表現があり、それと並べて見ると、この貫之の歌では 「白菊」と言わずに "秋の菊" と言っているが、白から紫に色が変わったそんな白菊でも、と言っているのだとも考えられる。 「匂ふ」という言葉を使った歌の一覧は 15番の歌のページを、 「かぎり」という言葉を使った歌の一覧は 187番の歌のページを参照。

 
278   
   色かはる  秋の菊をば   ひととせに  ふたたび匂ふ   花とこそ見れ
     
        「花より先と知らぬ」とは、どちらでも同じようなことだが、「花より先まで生きるかどうかわからない」というより「花より先に死ぬかもしれない」ということであろう。 270番の友則の歌と、亡き人の家の桜の花を詠んだ紀茂行(=貫之の父)の「いづれを先に 恋ひむとか見し」という 850番の歌を思わせるような歌であり、友則の死後に二人のことに思いをはせて詠んだものかもしれない。

 
( 2001/11/22 )   
(改 2004/01/27 )   
 
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