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       東の方へまかりける人によみてつかはしける 伊香子淳行  
373   
   思へども  身をしわけねば  目に見えぬ  心を君に  たぐへてぞやる
          
     
  • たぐへて ・・・ 連れ添わせて
  伊香子淳行(いかごのあつゆき)についてはその生没年も何もわかっていない。古今和歌集にもこの一首があるのみである。

  
一緒に行きたいとは思うけれども、この身を二つに分けるわけにもいかないので、「目に見えぬ心」をあなたと一緒に付き添わせましょう、という歌。 「目に見えぬ心」=この歌自体とも考えられる。詞書の東国に行ってしまった人に 「よみてつかはしける」という説明と、歌の "たぐへてぞやる" という言葉からすると、送別の場に出られなかったか、送別をしてもなお心残りがある気持ちでの歌のように見える。 「思へども」とはじまる歌には次の誹諧歌などがある。

 
1039   
   思へども   思はずとのみ  言ふなれば  いなや思はじ  思ふかひなし
     
        「思へども」という言葉を使った歌をまとめてみると次のようになる。これらの他に、706番の歌の「思へどえこそ たのまざりけれ」という言葉も似たようなニュアンスである。

 
     
369番    今日別れ  明日はあふみと 思へども  紀利貞
373番    思へども  身をしわけねば 目に見えぬ  伊香子淳行
569番    わびぬれば  しひて忘れむと 思へども  藤原興風
659番    思へども  人目つつみの 高ければ  読人知らず
809番    つれなきを  今は恋ひじと 思へども  菅野忠臣
1001番    富士の嶺の  もえつつとはに 思へども  読人知らず
 降る雪の  けなばけぬべく 思へども
 置く露の  けなばけぬべく 思へども
1032番    思へども  なほうとまれぬ 春霞  読人知らず
1039番    思へども  思はずとのみ 言ふなれば  読人知らず


 
( 2001/10/25 )   
(改 2004/02/17 )   
 
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