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       題しらず 藤原忠房  
576   
   いつはりの  涙なりせば  唐衣  しのびに袖は  しぼらざらまし
          
        ウソ泣きであれば、このように密かに袖をしぼって泣くようなことはないのに、という歌。

  三句目の "唐衣" という言葉の入れ方は 572番の貫之の「君恋ふる 涙しなくは 唐衣」という歌と同じで、言葉のかたちは、恋歌四にある次の読人知らずの歌と似ているが、わかりやすく面白い感じの歌である。 「唐衣」を使った歌の一覧は、その 572番の歌のページを参照。

 
712   
   いつはりの   なき世なりせば  いかばかり  人の言の葉  うれしからまし  
     
        この歌の "しのびに" は 「忍びに」で、薄く 「偲ぶ」ということが掛けてあるのかもしれない。 「しのぶ」という言葉を使った歌の一覧は、505番の歌のページを参照。また、最後の "しぼらざらまし" 
の 「ざらまし」は 「ざら+まし」という連語で、打消しの助動詞「ず」の未然形+推量の助動詞「まし」の終止形。 「ざらまし」という言葉を使った歌の一覧は 465番の歌のページを参照。

  「いつはり」という言葉が使われている歌をまとめておくと次の通り。ちなみに 「まこと」という言葉が使われている歌は、下記の 713番の歌のみである。

 
     
576番    いつはり  涙なりせば 唐衣  藤原忠房
614番    いつはり  こりぬ心を 人は知らなむ  凡河内躬恒
712番    いつはり  なき世なりせば いかばかり  読人知らず
713番    いつはり  思ふものから 今さらに  読人知らず
1054番    ただいつはり  すぐばかりなり  久曽


 
( 2001/10/24 )   
(改 2004/03/05 )   
 
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