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       題しらず 読人知らず  
712   
   いつはりの  なき世なりせば  いかばかり  人の言の葉  うれしからまし
          
        偽りのない世の中であれば、どれほどあなたの言葉がうれしいことか、というシンプルは歌。

  現代の感覚で言えば "人の言の葉" は 「人の言葉の」とあった方が語調がよいように思われるが、のったりとした言い方が恨みの感じを出しているとも言える。ちなみに古今和歌集の中で 「言葉」という語が使われている歌はない。 「言の葉」が使われている歌の一覧は 688番の歌のページを参照。

  この歌の "人の言の葉 うれしからまし" という部分は、 387番の白女(しろめ)の歌の「なにか別れの かなしからまし」という部分を思い出させる。この 「うれしからまし」は 「からまし」というかたまりが印象に残るので 「うれし+(から+まし)」のように見えるが、「うれしから+まし」で、「うれしから」は形容詞「嬉し」の未然形である。似たような形容詞の未然形+反実仮想の助動詞「まし」のかたちを持つ歌を一覧にしてみると次の通り。

 
     
53番    春の心は  のどけからまし  在原業平
387番    なにか別れの  かなしからまし  白女
678番    恋しきことも  なからまし  読人知らず
712番    人の言の葉  うれしからまし  読人知らず
796番    うつろふことも  惜しからまし  読人知らず


 
        また、201番に「声する方に 宿やからまし」という読人知らずの 「松虫」の歌があるが、これは 「から+まし」で、四段活用の動詞「借る」の未然形+「まし」である。その他のかたちで 「まし」を使っている歌の一覧は 46番の歌のページを参照。 「うれし」については 709番の歌のページを参照。この歌に続けては、内容が似た次の読人知らずの歌が置かれている。

 
713   
   いつはりと   思ふものから  今さらに  たがまことをか  我はたのまむ
     
        「いつはり」という言葉が使われている歌については 576番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/26 )   
(改 2004/03/07 )   
 
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