0829 |
泣く涙 雨と降らなむ わたり川 水まさりなば かへりくるがに |
小野篁 |
0830 |
血の涙 落ちてぞたぎつ 白川は 君が世までの 名にこそありけれ |
素性法師 |
0831 |
空蝉は 殻を見つつも なぐさめつ 深草の山 煙だにたて |
僧都勝延 |
0832 |
深草の 野辺の桜し 心あらば 今年ばかりは 墨染めに咲け |
上野岑雄 |
0833 |
寝ても見ゆ 寝でも見えけり おほかたは 空蝉の世ぞ 夢にはありける |
紀友則 |
0834 |
夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に うつつあるものと 思ひけるかな |
紀貫之 |
0835 |
寝るが内に 見るをのみやは 夢と言はむ はかなき世をも うつつとは見ず |
壬生忠岑 |
0836 |
瀬をせけば 淵となりても 淀みけり 別れを止むる しがらみぞなき |
壬生忠岑 |
0837 |
先立たぬ くいのやちたび かなしきは 流るる水の かへり来ぬなり |
閑院 |
0838 |
明日知らぬ 我が身と思へど 暮れぬ間の 今日は人こそ かなしかりけれ |
紀貫之 |
0839 |
時しもあれ 秋やは人の 別るべき あるを見るだに 恋しきものを |
壬生忠岑 |
0840 |
神無月 時雨に濡るる もみぢ葉は ただわび人の 袂なりけり |
凡河内躬恒 |
0841 |
藤衣 はつるる糸は わび人の 涙の玉の 緒とぞなりける |
壬生忠岑 |
0842 |
朝露の おくての山田 かりそめに うき世の中を 思ひぬるかな |
紀貫之 |
0843 |
墨染めの 君が袂は 雲なれや 絶えず涙の 雨とのみ降る |
壬生忠岑 |
0844 |
あしひきの 山辺に今は 墨染めの 衣の袖は ひる時もなし |
読人知らず |
0845 |
水の面に しづく花の色 さやかにも 君が御影の 思ほゆるかな |
小野篁 |
0846 |
草深き 霞の谷に かげ隠し 照る日の暮れし 今日にやはあらぬ |
文屋康秀 |
0847 |
みな人は 花の衣に なりぬなり 苔の袂よ 乾きだにせよ |
僧正遍照 |
0848 |
うちつけに さびしくもあるか もみぢ葉も 主なき宿は 色なかりけり |
近院右大臣 |
0849 |
郭公 今朝鳴く声に おどろけば 君に別れし 時にぞありける |
紀貫之 |
0850 |
花よりも 人こそあだに なりにけれ いづれを先に 恋ひむとか見し |
紀茂行 |
0851 |
色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき |
紀貫之 |
0852 |
君まさで 煙絶えにし 塩釜の うらさびしくも 見え渡るかな |
紀貫之 |
0853 |
君が植ゑし ひとむら薄 虫の音の しげき野辺とも なりにけるかな |
御春有輔 |
0854 |
ことならば 言の葉さへも 消えななむ 見れば涙の 滝まさりけり |
紀友則 |
0855 |
なき人の 宿にかよはば 郭公 かけて音にのみ なくとつげなむ |
読人知らず |
0856 |
誰見よと 花咲けるらむ 白雲の たつ野とはやく なりにしものを |
読人知らず |
0857 |
かずかずに 我を忘れぬ ものならば 山の霞を あはれとは見よ |
読人知らず |
0858 |
声をだに 聞かで別るる たまよりも なき床に寝む 君ぞかなしき |
読人知らず |
0859 |
もみぢ葉を 風にまかせて 見るよりも はかなきものは 命なりけり |
大江千里 |
0860 |
露をなど あだなるものと 思ひけむ 我が身も草に 置かぬばかりを |
藤原惟幹 |
0861 |
つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを |
在原業平 |
0862 |
かりそめの 行きかひぢとぞ 思ひこし 今はかぎりの 門出なりけり |
在原滋春 |