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       月夜に、梅の花を折りて、と人のいひければ、折るとてよめる 凡河内躬恒  
40   
   月夜には  それとも見えず  梅の花  香をたづねてぞ  知るべかりける
          
        詞書の 「折りて」の 「て」は完了の助動詞「つ」の命令形「てよ」の変形であるとされている。 「梅の花を折って」と頼まれたことに対して 「よし折ろう」と答えたようにも見えるが、それだと 「折らむとて」となるだろう。歌の "知るべかりける" の 「べかりけり」の 「けり」は一般的には過去の回想を表わす助動詞なので 「知るべきだったな」という感じであり、それからすると詞書の「折るとて」というのは、枝を折りに行った場所においてというニュアンスか。

  
月夜の白梅は光にまぎれてその位置がわかりづらい、そうか香りを頼りにすればよかったのだ、という歌である。どことなくウソっぽい感じもあるが、雪にまじって梅の花が見えないと詠う 334番の「梅の花 それとも見えず 久方の」という読人知らずの歌をベースにして、そこに 「香り」をつけているようにも見える。

  歌の中では 「折る」という言葉は出てこないが、躬恒の歌で 「花を折る」という歌と言えば、藤原定国の四十の賀の屏風絵の歌として桜を詠った 358番の「心のゆきて 折らぬ日ぞなき」の他、次の菊の花の歌が有名である。

 
277   
   心あてに  折らばや折らむ   初霜の  置き惑はせる  白菊の花
     
        梅の花は香りでわかるけれども、菊の花は「心あてに」(だいたいの見当で)見つけるしかないと言っているかのようである。

  「べかりけり」は 「べかり+けり」で、推測の助動詞「べし」の連用形+回想の助動詞「けり」。
 「〜するべきだった/〜に違いないのだ」という意味で、次のような歌で使われている。

 
     
40番    香をたづねてぞ  知るべかりける  凡河内躬恒
436番    あだなるものと  言ふべかりけり  紀貫之
517番    死にはやすくぞ  あるべかりける  読人知らず
678番    音にぞ人を  聞くべかりける  読人知らず
698番    死ぬとぞただに  言ふべかりける  清原深養父
834番    夢とこそ  言ふべかりけれ  紀貫之
969番    里をばかれず  問ふべかりけり  在原業平


 
( 2001/12/03 )   
(改 2004/01/14 )   
 
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