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       題しらず 読人知らず  
542   
   春たてば  消ゆる氷の  残りなく  君が心は  我にとけなむ
          
        春になれば消える氷のように残りなく、あなたの心は私に打ち解けてほしい、という歌。シンプルで楽観的な感じのする歌である。同じ "残りなく" という言葉を使った歌に 71番の読人知らずの桜の歌がある。

 "春たてば" とは 「立春になれば」ということで、これは 6番の素性法師の春歌にもでてくるが、一つ前の 541番までの恋歌の歌群からすると唐突な感じを受ける。

  
「古今和歌集全評釈(中)」 (1998 片桐洋一  講談社 ISBN4-06-205980-0) の 「巻十一・恋歌一の配列と構造」などでも指摘されていることだが、実はこの歌から恋歌一の最後にかけての十首は、何故かプチ四季の部ともいえるような季節仕立てで歌が置かれている。これらはすべて読人知らずのものであり、もともと何かの歌合せなどから恋の歌をまとめて引き抜いたものか、撰者たちの遊び心なのかはわからない。

 
     
  春 542番    春たてば  消ゆる氷の  残りなく  読人知らず
  夏 543番    明けたてば  のをりはへ  なきくらし  読人知らず
   544番    夏虫の  身をいたづらに  なすことも  読人知らず
  秋 545番    秋の露さへ  置きそはりつつ  読人知らず
  546番    秋の夕べは  あやしかりけり  読人知らず
   547番    秋の田の  穂にこそ人を  恋ひざらめ  読人知らず
   548番    秋の田の  穂の上を照らす  稲妻の  読人知らず
   549番    人目もる  我かはあやな花薄  読人知らず
  冬 550番    淡雪  たまればかてに  くだけつつ  読人知らず
   551番    奥山の  菅の根しのぎ降る雪  読人知らず
     ****** 恋歌一の終わり ******       


 
( 2001/12/10 )   
(改 2004/02/23 )   
 
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