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       返し 読人知らず  
972   
   野とならば  うづらとなきて  年はへむ  かりにだにやは  君がこざらむ
          
     
  • うづら ・・・ ウズラ (キジ目キジ科の鳥)
  この歌は直前の業平の歌に対する返しであり、歌の意味は、
あなたがいらっしゃらなくなってここが荒れた野となるのなら、私はウズラになって泣き悲しんで年を過ごしましょう、そうすれば狩りのついでに仮にでも、あなたがいらっしゃらないことはないでしょうから、ということ。 "うづら" に憂(ウ)辛(ツラ)を詠みこみ、 "かり" には「狩り−仮」を掛けている。

  「野とやなりなむ」を受けて "野とならば" と詠い出し、「年をへて」を受けて "年はへむ" とはめ込んでいる。 "年はへむ" の「経(ふ)」という動詞を使った歌の一覧は 596番の歌のページを参照。元の業平の歌とこの歌の最後の部分を比較してみると、
  • (元歌) なりなむ ・・・ なり(なるの連用形)+(ぬの未然形)+(推量の助動詞)
  • (返し) こざらむ ・・・ (くの未然形)+ざら(ずの未然形)+(推量の助動詞)
と、推量を推量で返している形になる。業平側の「野となるだろう」という推量の度合強まれば強まるほど、「だにやは+こざらむ」の反語の程度も強まるような感じでもある。 「やは」を使った歌の一覧については 106番の歌のページを参照。 「だに」という言葉を使った歌の一覧については 48番の歌のページを参照。次の読人知らずの歌は、推量の 「む」がなく、補助動詞「まし」という尊敬のニュアンスがある点でこの歌の "こざらむ" とは異なるが、やはりそちらの方が優しい感じがする。

 
758   
   須磨の海人の  塩やき衣  をさをあらみ  まどほにあれや  君がきまさぬ  
     
        また、この歌では鳥なので 「狩り」だが、「刈り」に 「仮」を掛けていて、この歌と感じが似ているものとしては、次のような恋歌がある。

 
759   
   山しろの  淀のわかごも  かりにだに   来ぬ人たのむ  我ぞはかなき
     
755   
   うきめのみ  おひて流るる  浦なれば  かりにのみこそ    海人は寄るらめ  
     
        草むらの鳥つながりとしては、雑体の部に次の平貞文の雉(キジ)の誹諧歌がある。

 
1033   
   春の野の  しげき草葉の  妻恋ひに  飛び立つ きじ の  ほろろとぞ鳴く
     
        鳥などが 「〜というように鳴いている」という歌の一覧は 1034番の歌のページを参照。

 
( 2001/09/11 )   
(改 2004/02/17 )   
 
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