Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十七

       これたかのみこのかりしけるともにまかりて、やどりにかへりて夜ひと夜酒をのみ、ものがたりをしけるに、十一日の月も隠れなむとしけるをりに、みこゑひてうちへ入りなむとしければよみ侍りける 在原業平  
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   あかなくに  まだきも月の  隠るるか  山の端逃げて  入れずもあらなむ
          
     
  • あかなくに ・・・ まだ物足りないのに
  • まだきも ・・・ 早くも
  詞書の意味は、「惟喬親王の狩りの供について行った時、宿に戻って一晩中酒を飲み、歓談していた時に、十一日の月が沈もうとする頃、親王が酔いが回って眠たくなったので寝所へ入ろうとするのを見て詠んだ」ということ。

  歌の意味は、
まだ物足りないのに早くも月がお隠れになるのか、山の端は逃げて隠れられないようにしてほしい、ということ。歌の内容は業平と惟喬親王との仲のよさを伝えているが、 "あかなくに" と呼びかけ、その姿を 「月が隠れる」と譬えるのは道化の歌である。良く言えば自由奔放、悪く言えば不敬。タロット・カードの 「愚者(The Fool)」のイメージに近い。 "山の端逃げて" という大振りさは、871番の「大原や をしほの山も 今日こそは」という歌や、294番の「ちはやぶる 神世もきかず 竜田川」という歌を思い出させる。

  この歌は 53番 / 418番 / 419番の歌と共に伊勢物語の第八十二段にあり、第六十九段にある次の歌と共に、すでに古今和歌集の作成当時、物語化されていたものであろう。

 
646   
   かきくらす  心の闇に  惑ひにき  夢うつつとは  世人さだめよ
     
        "あかなくに" で使われている逆接の 「なくに」については、19番の歌のページを参照。また、「あかず」という言葉を使った歌の一覧は 157番の歌のページを、「まだき」という言葉を使った歌の一覧は 763番の歌のページを参照。

 
( 2001/05/27 )   
(改 2004/03/08 )   
 
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