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「音に聞く」というのは 「噂に聞く」ということで、噂にだけ聞いてあなたを思っていると菊に置く白露のように夜は 「起きて」、昼は耐えられず消えてしまいそうな気持ちです、という歌。基本的には 「聞くー菊」と 「置く−起く」の二つの掛詞があるだけだが、細かい所にも工夫がある歌である。
「白露」を中心として、上には菊を配して 「白菊の露」を思わせ、下には 「置く」を配して 「消ゆ」に備えている。 "思ひ" の 「ひ」は、露を消す太陽の「日」にもつながり、 「思ひに〜けぬべし」という部分は、 「思ひ消ゆ」(=気が滅入る)ということから 328番の忠岑の「住む人さへや 思ひ消ゆらむ」の 「白雪」の歌などを思い出させる。
また、この歌の "夜はおきて 昼は思ひに" という部分は、「菊」と季節が少しずれるが、1030番の小野小町の「人にあはむ 月のなきには 思ひおきて」という 「熾(おき:=赤く燃える炭火)」の 「火」に 「思ひ」の 「ひ」を掛けていると思われる歌も連想される。
さらに、この歌では 「夜−昼」の対を 「起きる−思ひ消ゆ」に合わせているが、素性には 354番の「ふして思ひ おきて数ふる 万代は」という賀歌もあり、言葉遣いとしてどこか近いものを感じさせる。 「あへず」という言葉を使った歌の一覧については 7番の歌のページを参照。
他に 「音にのみ聞く」という言葉を使った歌としては、「うためしける時に、たてまつるとてよみて、奥にかきつけてたてまつりける」という詞書を持つ次の伊勢の歌がある。
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