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       題しらず 酒井人真  
743   
   大空は  恋しき人の  形見かは  物思ふごとに  ながめらるらむ
          
        酒井人真(ひとざね)は生年不明、917年没。 914年従五位下。古今和歌集に採られているのはこの一首のみ。歌の意味は、大空は恋しい人の形見だろうか、そうでもないのにどうして物思いをする度に眺めてしまうのだろう、ということ。

  "ながめらるらむ" は 「ながめ+らる+らむ」で、「らる」は自発を表わす助動詞、「らむ」は前半の 
"かは" という反語を受けて、疑問に思っていることの原因がわからない、という感じを表わす助動詞である。 「大空を眺める」ということと 「形見を眺める」ということを、反語を使いながらもうまく結び付けている歌であると言える。恋歌の中で 「空」という言葉を使っている歌の一覧は 481番の歌のページを、「ながむ」という言葉を使った歌の一覧は 113番の歌のページを参照。

  この歌から 「形見」を詠った歌が四首つづくが、「形見」の歌を一覧にしてみると次の通り。ちなみに、754番の歌にある 「花がたみ」は 「花を入れる竹かご(=花筐)」のことである。

 
     
46番    春はすぐとも  形見ならまし  読人知らず
66番    花の散りなむ  のちの形見  紀有朋
240番    宿りせし  人の形見か 藤ばかま  紀貫之
400番    君が形見  つつみてぞ行く  読人知らず
717番    そをだにのちの  忘れ形見  読人知らず
737番    おのがものから  形見とや見む  源能有
743番    大空は  恋しき人の 形見かは  酒井人真
744番    あふまでの  形見も我は 何せむに  読人知らず
745番    あふまでの  形見とてこそ とどめけめ  藤原興風
746番    形見こそ  今はあたなれ これなくは  読人知らず


 
( 2001/12/05 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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