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花の色を霞で隠しているのは仕方がないが、せめて香りだけでも盗んで届けてくれ、という歌。前半に主語となるものがないので、何が花の色を 「霞にこめて見せ」ないようにしているのかがわかりづらい。ここでは山全体が、というように見ておく。
三十五歳で出家して後に僧正遍照となった宗貞を僧侶のイメージで考えると 「盗め」とはきつ過ぎる感じもするが、出家後にも 226番のオミナエシの歌でも 「我おちにき」(堕落した)と使っているように、本来こうした荒い言葉の勢いのよさを見極める感性を持っていたのだろう。霞の衣はそのままに "香をだにぬすめ" というこの歌は、「山風にこそ 乱るべらなれ」と詠う 23番の在原行平の歌と比べると若干、品があるようにも見える。 「春霞」の歌の一覧は 210番の歌のページを参照。
また、この歌を同じ作者の 872番の「天つ風 雲のかよひぢ 吹きとぢよ」という歌と合わせて見ると、どちらも風を家人のように手繰ろうとしているようで面白い。もちろんこうした 「風への命令」は宗貞=遍照の歌だけに現われるわけではなく、452番の景式王(かげのりのおおきみ)の物名の「月吹きかへせ 秋の山風」という歌のほか、以下のような歌にも見られるスタイルである。
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