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       友の東へまかりける時によめる 良岑秀崇  
379   
   白雲の  こなたかなたに  立ち別れ  心をぬさと  くだく旅かな
          
     
  • ぬさ ・・・ 道中の安全を祈願する時に使う、布や紙などと小さく切ったもの(幣)
  良岑秀崇(ひでおか)は 879年文章生、896年従五位下。良岑宗貞(むねさだ:=僧正遍照)との関係は不明。また 878年の元慶の乱の頃の秋田城司、良岑近(ちかし)との関係も不明である。古今和歌集に採られているのはこの一首のみ。

  
白雲のこちらとあちらに別れてしまう、心を幣のようにくだくように別れのつらい旅である、という歌で、菅原道真の 420番の「このたびは ぬさもとりあへず たむけ山」という羇旅歌を思い出させるが一つ前の 378番の深養父の歌の後に読むと、非常に面白い歌に見える。

  同じ 「立ち別れ」という言葉を使った 370番の紀利貞の歌が、「旅に発つ」に掛けるために 「春霞」を持ってきたように、この歌でも 「立つもの」として "白雲" が使われている。これは 371番の貫之の歌の「白雲の たちなむのちは なに心地せむ」や次の読人知らずの哀傷歌にも例が見られる。

 
856   
   誰見よと  花咲けるらむ  白雲の    たつ野と はやく  なりにしものを
     
        「白雲」を使った歌の一覧は 30番の歌のページを、「ぬさ」という言葉を使った歌の一覧は 298番の歌のページを参照。

  「こなたかなた」という言葉は、「あちこちに/方々に」という意味もあるが、この歌では二方向を指し、自分がこちら、別れてゆく友があちら、という感じで、その点、次の読人知らずの恋歌が、二本の片糸(=縒り合わせる前の細い糸)を自分と相手に譬えているのと同じ感覚と見てよいだろう。

 
483   
   片糸を  こなたかなたに   よりかけて  あはずはなにを  玉の緒にせむ
     
        「こなた(/かなた)/あなた」という言葉を使った歌をまとめてみると次の通り。

 
        [こなた(かなた)]  
     
379番    白雲の  こなたかなたに 立ち別れ  良岑秀崇
473番    あふ坂の  関のこなたに 年をふるかな  在原元方
483番    片糸を  こなたかなたに よりかけて  読人知らず


 
        [あなた]  
     
330番    雲のあなた  春にやあるらむ  清原深養父
877番    山のあなた  惜しむべらなり  読人知らず
883番    あなたおもてぞ  恋しかりける  読人知らず
950番    山のあなた  宿もがな  読人知らず


 
        また、"ぬき" とは緯度・経度の「緯」にあたるもので、314番の読人知らずの歌に「時雨の雨を たてぬきにして」とある他、秋歌として次の藤原関雄の歌でも使われている。

 
291   
   霜のたて  露の ぬき こそ  弱からし  山の錦の  おればかつ散る
     

( 2001/11/27 )   
(改 2004/02/06 )   
 
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