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       もる山のほとりにてよめる 紀貫之  
260   
   白露も  時雨もいたく  もる山は  下葉残らず  色づきにけり
          
     
  • いたく ・・・ ひどく
  
露も時雨もひどく漏る、という名の 「もる山」は、下の方の葉まで残らず色づいてるな、という歌。

  詞書にある "もる山" は、現在の滋賀県野洲郡野洲町の三上山のことか。その山の西に現在、守山(もりやま:滋賀県守山市)という地名があり、詞書の 「ほとり」(=近辺)ということから、そこから三上山を望んでの歌なのかもしれない。また、三上山の東には 899番や 1086番の歌で詠われている 「鏡山」(滋賀県蒲生郡)がある。

  この歌では 「もる」から 「漏る」に掛けているが、「守る」と 「露」の歌としては、次の忠岑と読人知らずの歌が 「山田もる」として使っている。

 
306   
   山田もる   秋のかりいほに  置く露は   いなおほせ鳥の  涙なりけり
     
307   
   穂にもいでぬ  山田をもると   藤衣  稲葉の露に   濡れぬ日ぞなき
     
        「時雨」と言えば 「神無月」と結びついて初冬のイメージがあるが、398番の兼覧王(かねみのおおきみ)の「秋の時雨と 身ぞふりにける」という歌や、「秋は時雨に 袖をかし」という 1003番の忠岑の長歌、あるいは763番の読人知らずの恋歌のように、秋と時雨を直接結びつけたものもある。 
「時雨」を詠った歌の一覧は 88番の歌のページを参照。 「いたく」という言葉が使われている歌の一覧については 893番の歌のページを参照。

  "下葉残らず" とは 「下の方の葉まですっかり全部」ということで、「下葉(したば)」という言葉を使ったその他の歌としては、次の歌や 211番の歌の「萩の下葉も うつろひにけり」のような「萩の下葉」を詠ったものがある。

 
220   
   秋萩の  下葉色づく   今よりや  ひとりある人の  いねがてにする
     
        同じ貫之の歌の中では 918番の「雨により たみのの島を 今日ゆけど」という歌がこの歌と雰囲気が似ていて並べて見たい気がする。 「色づきにけり」という言葉を使った歌の一覧については 256番の歌のページを参照。

  また、この歌は藤原定家が八代集からそれぞれ十首づつ選んで編んだ「八代集秀逸」の中で選ばれているものの一つである。その他の九首については 365番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/10 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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