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       かひのかみに侍りける時、京へまかりのぼりける人につかはしける 小野貞樹  
937   
   みやこ人  いかがと問はば  山高み  晴れぬ雲ゐに  わぶと答へよ
          
     
  • 山高み ・・・ 山が高いので
  • 雲ゐ ・・・ 雲、あるいは雲のある場所
  • わぶ ・・・ 寂しくてしょんぼりしている
  詞書は 「甲斐守であった時、京へ上っていった人に送った」歌ということ。歌の意味は、
都の人が 「貞樹はどうしているか」と聞いたら、「甲斐の山が高いのでその雲の中にいて、気持ちが晴れずに寂しくしている」と答えよ、ということ。  "山高み" と同じ 「名詞+形容詞の語幹+み」というかたちを持つ歌の一覧は 50番の歌のページを参照。

  小野貞樹はその生没年は不明だが、 855年従五位上、 851〜856年の間、甲斐守であった。古今和歌集にはもう一首、次の小野小町との贈答歌の返しが取られている。

 
783   
   人を思ふ  心の木の葉に  あらばこそ  風のまにまに  散りも乱れめ
     
        また、贈答歌ではないが、この 「みやこ人」の歌の次にも小野小町の次の歌が置かれている。

 
938   
   わびぬれば   身を浮草の  根を絶えて  さそふ水あらば  いなむとぞ思ふ
     
        そして、この貞樹の 「みやこ人」の歌は次の在原行平の歌とそっくりである。その歌の詞書から、行平が須磨にいた時期は、文徳天皇在位の期間( 850〜858年)であり、それはちょうど貞樹が甲斐守であった期間と同じころでもある。どちらかが真似をした可能性もあるが、貞樹は山で "晴れぬ雲ゐ" と言い、行平は海で 「藻塩たれつつ」と詠っているのが面白い。

 
962   
   わくらばに  問ふ人あらば   須磨の浦に  藻塩たれつつ  わぶと答へよ  
     
        「わぶ」という言葉を使った歌を一覧してみると次の通り。

 
     
50番    人もすさめぬ 桜花  いたくなわび  読人知らず
199番    草むらごとに  虫のわぶれ  読人知らず
569番    わびぬれば  しひて忘れむと 思へども  藤原興風
571番    恋しきに  わびてたましひ 惑ひなば  読人知らず
773番    今しはと  わびにしものを ささがにの  読人知らず
775番    雨も降らなむ  わびつつも寝む  読人知らず
810番    人知れず 絶えなましかば  わびつつも  伊勢
813番    わびはつる  時さへものの かなしきは  読人知らず
937番    山高み 晴れぬ雲ゐに  わぶと答へよ  小野貞樹
938番    わびぬれば  身を浮草の 根を絶えて  小野小町
962番    須磨の浦に 藻塩たれつつ  わぶと答へよ  在原行平
988番    ゆくへ知らねば  わびつつぞ寝る  読人知らず


 
        なお、他にも 「わびし」「わび人」「〜わぶ」「わびしら」のようなものもあり、それらについては以下のページを参照。
  • わびし ・・・ 8番
  • わび人 ・・・ 292番
  • 〜わぶ ・・・ 152番
  • わびしら ・・・ 451番
 
( 2001/12/18 )   
(改 2004/03/04 )   
 
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