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       梅の花を折りてよめる 東三条左大臣  
36   
   うぐひすの  笠にぬふてふ  梅の花  折りてかざさむ  老いかくるやと
          
        ウグイスが笠に縫うという梅の花、それを折って頭に挿して飾ろう、老いが隠れるかと、という文字通りの歌である。

  東三条左大臣(とうさんじょうのひだりのおおいまうちぎみ)とは源常(ときは)のこと。812年生れ、854年没。828年従四位下、830年従四位上、832年従三位、833年正三位、840年右大臣、842年従二位、844年左大臣、850年正二位。嵯峨天皇の皇子であり、724番873番に歌のある河原左大臣・源融(とほる)の兄。古今和歌集に採られているのはこの一首のみ。

  この歌の「ウグイスが笠に縫うという梅の花」というのは、巻二十にある次の 「かへしものの歌」を受けたもの。元の歌の方がやはり輝きがある。

 
1081   
   青柳を  片糸によりて うぐひすの  ぬふてふ笠は    梅の花笠  
     
        秋歌下には友則によるこの歌の 「菊」バージョンがある。

 
270   
   露ながら  折りてかざさむ    菊の花   老いせぬ秋の  ひさしかるべく
     
        「てふ」は 「と言ふ」の略で、次のような歌で使われている。また、435番の僧正遍照の歌の「思ひ知らずも 惑ふてふかな」の 「てふ」を 「蝶」と見ずに、これらと同じ 「と言ふ」と見る説もある。

 
     
36番    うぐひすの  笠にぬふてふ 梅の花  源常
136番    あはれてふ  ことをあまたに やらじとや  紀利貞
381番    別れてふ  ことは色にも あらなくに  紀貫之
493番    たぎつ瀬の  なかにも淀は ありてふ  読人知らず
502番    あはれてふ  ことだになくは なにをかは  読人知らず
519番    人知れず  思ふてふこと 誰にかたらむ  読人知らず
553番    夢てふものは  たのみそめてき  小野小町
683番    伊勢の海人の  朝な夕なに かづくてふ  読人知らず
688番    思ふてふ  言の葉のみや 秋をへて  読人知らず
692番    こてふににたり  待たずしもあらず  読人知らず
707番    つひによる瀬は  ありてふものを  在原業平
803番    秋の田の  いねてふことも かけなくに  兼芸法師
816番    海人の住むてふ  うらみつるかな  読人知らず
939番    あはれてふ  ことこそうたて 世の中を  小野小町
940番    あはれてふ  言の葉ごとに 置く露は  読人知らず
1002番    あはれてふ  ことを言ひつつ 君をのみ  紀貫之
1003番    あはれむかしべ  ありきてふ 人麿こそは  壬生忠岑
1015番    いづらは秋の  長してふ夜は  凡河内躬恒
1020番    つづりさせてふ  きりぎりす鳴く  在原棟梁
1027番    我をほしてふ  うれはしきこと  読人知らず
1038番    思ふてふ  人の心の くまごとに  読人知らず
1044番    人をあくには  うつるてふなり  読人知らず
1081番    うぐひすの  ぬふてふ笠は 梅の花笠  読人知らず


 
( 2001/11/05 )   
(改 2004/02/18 )   
 
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