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       家にありける梅の花の散りけるをよめる 紀貫之  
45   
   くるとあくと  目かれぬものを  梅の花  いつの人まに  うつろひぬらむ
          
     
  • くるとあくと ・・・ 暮れても明けても (暮ると明くと)
  • 目かれぬ ・・・ 目を離さない
  • 人ま ・・・ 人が見ていない間
  
常に目に止めて鑑賞していたはずのに、いつの間にこんなに花が散るようになってしまったのだろう、という歌。 「家にありける梅」という詞書が、 "くるとあくと 目かれぬ" ものであったことを補足している。

  静かな時間の流れを詠みながら、「くるとあくと/目かれぬ/人ま」という目を引く言葉の選び方に工夫が感じられる。 「離る(かる)」という言葉を使った歌の一覧は 803番の歌のページを参照。

  この歌の 「うつろふ」は、その前の "目かれぬ" で 「離る−枯る」を匂わせているので、「散る」ということであろうが、「うつろふ(移ろふ)」には 「色(あるいは心)が変る」ということを指す場合もある。活用形が異なるなど文法的には違いがないので、どちらの意味ととるかはケース・バイ・ケースで判断しづらいこともある。また、散ることを表すのには 9番の歌の「花なき里も 花ぞ散りける」のように、「散る」が直接使われていることも多いので、散るという意味の 「うつろふ」と 「散る」という言葉の間には何らかのニュアンスの違いがあるとも考えられる。

  「うつろふ」という言葉が使われている歌の一覧は次の通り。

 
        「散る」であると思われるもの  
     
45番    梅の花 いつの人まに  うつろひぬらむ  紀貫之
69番    桜花 うつろはむとや  色かはりゆく  読人知らず
85番    心づからや  うつろふと見む  藤原好風
124番    吹く風に 底の影さへ  うつろひにけり  紀貫之


 
        「変る・褪せる」であると思われるもの  
     
92番    うつろふ色に  人ならひけり  素性法師
211番    萩の下葉も  うつろひにけり  読人知らず
232番    女郎花 なぞ色にいでて  まだきうつろふ  紀貫之
247番    朝露に 濡れてののちは  うつろひぬとも  読人知らず
253番    かねて うつろふ  神なびのもり  読人知らず
255番    同じ枝を わきて木の葉の  うつろふ  藤原勝臣
262番    はふくずも 秋にはあへず  うつろひにけり  紀貫之
271番    ありし菊 うつろふ秋に  あはむとや見し  大江千里
279番    菊の花 うつろふからに  色のまされば  平貞文
280番    菊の花 色さへにこそ  うつろひにけれ  紀貫之
441番    花見むと こしを匂ひぞ  うつろひにける  読人知らず
599番    年ふれば 唐紅に  うつろひにけり  紀貫之
726番    ちぢの色に うつろふらめど  知らなくに  読人知らず
729番    染めしより うつろはむとは  思ほえなくに  紀貫之
782番    言の葉さへに  うつろひにけり  小野小町
795番    花染めの うつろひやすき  色にぞありける  読人知らず
796番    染めざらば うつろふことも  惜しからましや  読人知らず


 
        「散る」か「変る」か微妙なもの  
     
105番    うつろふ花に  風ぞ吹きける  読人知らず
187番    もみぢつつ うつろひゆくを  かぎりと思へば  読人知らず
254番    もみぢ葉に 思ひはかけじ  うつろふものを  読人知らず
714番    秋風に 山の木の葉の  うつろへ  素性法師
797番    色見えで うつろふものは  世の中の  小野小町


 
        また、「うつろふ」は、「うつる(移る)」に継続の助動詞「ふ」がついた 「うつらふ」が変化したものとされている。その「うつる」が使われている歌の一覧については 104番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/07 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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