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遠鏡
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此ノツクバ山ノ紅葉ノチツテ ツモツタヲ見レバ 惜ウ大事ニ思ハルヽガ テウド 此ノ紅葉ヲ思フトホリニ 此ノ常陸ノ国ノ内ノ百姓ハ ドレカレト云フヘダテナシニコト/゛\ク フビンニ大切ニ思ハルヽコトヨマア 上の句は。結句のかなしもといふへかゝれる。たとへなり。さてしるもしらぬもなべてといふ詞は。上の句の落葉のたとへの方へはあづからず。この所よくせずはまぎれぬべし。さて此の歌何人のいかなることをよめるにか。さだかならざれば。結句の訳もそのさすことによりて。かはるべきを。今はしばらく。国の司の部内の民をあはれびたることにとりて訳しつ。さるは京人の歌にてもその国に伝はるぬるは。その国の歌とせること。萬葉の東歌の中にも見えたり。余材わろし。又打聞に女の男を思へることにとかゝれたるは。いかゞ。もしその意ならば。四の句。これもかれもなどはいひもすべけれど。しるもしらぬもなべてとは。あまりひろくしてひたゝけたり。 |
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余材
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このもかのもより落つもるもみちはその木此枝よりとしらねとみなあはれと見るを知もしらぬもなへてかなしもといへるなりさきのつなてかなしもの悲しに同しこれもおほやけのあまねきおほんめくみの所をえらひ人をわきたまはぬにたとふるこゝろなり |
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打聴
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是は古歌なればいにしへを心得では説がたかるべしつくばねの嶺のとかさねて云ひさて彼山は木しげゝれば木葉の落てなべて散しきたるに譬へてなべてかなしもと云也此歌女の多くの人に恋らるゝ時見しれる人は本よりしらぬもあはれと思ふよし有てしるしらぬのわきなくうつくしまるゝとよめる成べしそれを此山の木葉の此面彼面になべて散つもりたるにたとへて上はいへりかくては頑[カタク]なる人は心おほき女と思ふべし世の中の事は人にいはでさま/\思ふ事有物也後の世の人心はそれをえらびて云へき人に物をいへどいにしへの人は心実にしてありのまゝをいへり今の人はことばと心と皆たがひてまことなし此わかちをよくしらずば古歌はよく説得る事かたしかなしは上にも云ごとく心に思ひしめる事を云こゝにてめでたしともあはれともおもふをかなしと云也 |
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