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遠鏡
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今夜コヽヘ来テ居テ見レバ 月ガモトノ去年ノ月デハナイカサア 月ハヤツハリ去年ノトホリノ月ヂヤ 春ノケシキガモトノ去年ノ春ノケシキデハナイカサア 春ノケシキモ梅ノ花サイタヤウスナドモ ヤツハリモトノ去年ノトホリデ ソウタイナンニモ 去年トチガウタコトハナイニ タヾオレガ身一ツバツカリハ 去年ノマヽノ身デアリナガラ 去年逢タ人ニアハレイデ 其ノ時トハ大キニチガウタコトワイノ サテモ/\去年ノ春ガ恋シイ 二つのやはやはの意なり。さて結句の下へ。もとのやうにもあらぬことかな。といふ意をふくめたり。怨ふくめたることは。月やはあらぬ春やはあらぬ。月も春も。もとのまゝなるにといへる。上の句にて聞えたり。すべてこの朝臣の歌は。心あまりて詞たらずといふは。かゝるところなり。余材打聞ともにわろし。かの説どものごとくにては。してとゝぢめたる語のいきほひにかなはず。よく/\語のいきほひをあぢはひて。心得べき歌ぞかし。 |
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余材
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風体抄に月やあらぬといひ春やむかしのなとつゝける程のかきりなくめてたき也といへり月やはこそのよりもとの身にしてと也まて後に改られたりおほろ月夜梅の花さかりをはしめてこそにかはる事なきに月も春もこその物ともほえねはたゝ月やこその月にあらぬ春やこそのはるにあらぬこそ人にあひたてまつりし時のみこひしくわすられぬ我身ひとつはもとの身にしてと下句より上句へかへりてきはめてとかめておくへしある抄に下句を注して我身一つも又もとの身なるに何事そさもおほえぬはとなりと云るはいまたひとつはといへるは心をえぬ也月やこその月にあらぬと見るにおほろ月夜の面白さもこそにかはらす春やこその春にあらぬとみるに梅の花さかりをはしめて又こそにかはる事なしたゝわか身ひとつはうかりしもとの身にしてと也伊勢物語にあり所はきけと人のゆきかよふへき所にもあらさりけれはなほうしとおもひつゝなんありけるといへる時をさして其時のまゝの身といへりとそあひみし時にくらへてもとの身といへるには非す実には其時のこゝろになりてよく/\味ふへし... |
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打聴
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月もかつ見ながら昔の月に非ざるかとおほえ梅も且見ながら去年見し花にはあらぬかとおもはるさらば我身はいかにと思ひめぐらすに我のみ故[モト]のまゝにてこゝに来[キタ]るはと云也去年に似ぬと思ふ月と花とにむかへて我身一つはと云はのてにはにてことわれりさていかに月花のけしきのかはれるこゝちするにやと尋るに思ふ人のこゝにあらで物がなしき情[コヽロ]よりしか見ゆると也 |
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